2013年10月24日木曜日

セデック・バレ鑑賞の手引き ちょっとわかりにくい点をわかりやすく解説! ついでに豆知識も詰め込んじゃう。

 この週末にはオールナイトがあるんですが、いけそうにないので取り合えず記事にしてしまう。

 この映画、初めて見るとちょっとわかりにくい点があるので、前編四回、後編三回見た私がちょこっと解説を!

 最初の狩りのシーンで、いのししを追っている人たちは、セデック族ではありません。カンタバンという別部族の人たちです。よく見ると服も違うんですよ。セデック族は基本赤をベースとした縞模様の布を纏っています。カンタバンは白い服で袖口や襟元にカラフルなステッチの縁取りがついています。そして、最後に若モーナを撃とうとする人、これがカンタバンの頭目です。というのをわかっていると、この後で日本軍と戦ってるときに同盟しようとしたカンタバンの態度が、モーナの名前聞いた途端に妙な感じになる理由がよくわかります。

 この後セデック族がみんなで家に帰るとき、若モーナを迎えに新しい服を持って出てくるのは、モーナの奥さんではなくお母さん。

 山のふもとの交易所。一触即発な若モーナたちとタウツァの人々。実はどっちもセデック族です。同じセデック族の中でも住んでる地域とかで三グループに別れています。モーナたちはトゥグダヤ蕃。タウツァはタウツァ蕃。映画には出てきませんがもう一つ、トロック蕃があります。で、その中でまた集落ごとに別れてる、と。

 日本軍と戦うゲリラな漢族の皆さん。実はこのとき、台湾は独立しようとしていました。清朝が現地の意向なんて聞かずに台湾を割譲しちゃったんだから、そりゃ独立したくもなるよ。うまくいっていれば世界初の共和国の誕生となるところだったんですが、世界がほとんど認めてくれないまま、日本に敗れたんでこの志は潰えました。街の門がドカーンと開けられた後、ばっさり切られる見慣れない旗は、この独立台湾の旗です。

 清朝の正規軍は基本的に単に赴任してるだけ、なので割譲と決まるとさっさと引き上げてしまいました。なのでゲリラは基本現地の人々。当然戦闘のプロではありません。ついでに言うと、共和国なんてことを考えちゃうだけあって、実戦向きとは言い難いインテリさんたちなんだよね……。

 逆に原住民の皆さんは日常が戦いな戦闘のプロ。この勇猛果敢且つ、日本軍相手に結構互角に戦ってるところは彼等を下に見ていた漢族の意識を変えたらしい。

 交易所が閉鎖されちゃって、カンタバンと手を組むことに。若モーナが名乗った途端にカンタバンの頭目がそーかそーかお前がモーナかそーか、となるのは、そんなわけで冒頭のシーンに遠因があります。あ、ちなみに交易所にいるちっちゃい子はここの親父さんの孫。エンドロールにそう書いてあります。

 ついに敗れて降伏したセデック族。頭蓋骨提出のとき、穴の中で暴れる若モーナを見下ろす一族の後ろに、死んでしまったモーナパパ。

 時は流れて霧社の街。
 雨が降ってきたから洗濯物取り込め、赤ん坊は置いてけ、と高圧的なおばさんにびしびし言われているのは、このあと結婚式を挙げるルビちゃん。

 視察に来ているえらい人は江川博通。この辺りの警察課長。エリア全体の管轄者なので、この日は視察に来ていますが、事件当日は霧社にはいません。

 師範学校出てて一番学歴があるのに給料が安い花岡一郎。なんでこうなるかというと、日本から台湾へ行く人の給料には遠方手当(危険手当のニュアンスもあり)がついたから。ベースのお給料は同じなんですが、この手当てがつくんで日本人の給料の方が高くなった。これは先生とかも同じ。ただ問題は、初期はともかくとして後々、台湾生まれの日本人と台湾人が同じ学校出て教師になっても、やっぱり給料にこの差があったってことだ! ついでに台湾人の方が山の上とか不便な場所に赴任させられることが多く、当然実家を遠く離れてたりするのに、遠方手当は出ないんだよ。そして、材木運んでる人たちにろくに給与が出てないのは、単なるピンはねだ。

 材木運んでるセデック族の若者たちは、モーナの青年時代と比べて髪が短いです。バーワンを見るとわかりますが、学校行くのに髪を短く切っている。だからそんなに伸びてないんですね。そして男女両方とも刺青が入ってない。本当は、刺青ないと一人前でないので結婚もできません。子孫を作る資格がないわけです。

 事件前日に霧社に来る小島一家。この小島源治はタウツァの駐在所の人なので、本来はこの一家は霧社にはいません。ただ、翌日の運動会が小学校・公学校・蕃童教育所の合同だったので、それに参加するために霧社に来ています。霧社には公学校と小学校がありました。ただし霧社尋常小学校は映画には出てこない。

 当時、小学校は日本人の子供が通い、漢族の子供は公学校、原住民の子供は基本公学校で、学校が遠すぎると蕃童教育所。ただし漢族・原住民ともに日本語が上手に話せる子何人かは小学校への入学が可能でした。それでも、台湾人の子の方が成績優秀な場合も主席は絶対日本人、とかそういう差別をする先生はいたらしい。逆に学校のそういう方針に異を唱える先生もいたけどね。

 学校で日本化教育を受けた子供達は、なるべく日本語を使おうとし、畳のある日本家屋に憧れ、親が日本語を話さないことを恥ずかしく思ったりもしたようです。畳の平屋建てなんてダサい、フローリングがいい、という今の日本人感覚に通じるものがあるなあ。後々日中戦争が始まると、この教育、は、単なる先進化ではなく皇民化になるわけなんですが。

 あと、原住民の子は中学生くらいの年齢になってから小学校に通う例もあったようです。バーワンはたぶんそういう感じで公学校に通っている。霧社尋常小学校に通う日本人児童は四十人くらいしかいなかったそうで、この日公学校に集まった子供達は漢族が百人くらい、周辺各地の蕃童教育所から集まったセデックの子供たち二百人くらい、と言う内分けでした。このセデックの子供達、には当然モーナたち蜂起側だったトゥグダヤだけでなく、タウツァ、トロックの子供も含まれています。内部事情お構いなしに一緒くたに集めちゃってるんだよね。

 オルガン演奏開始直前。花子と初子が「二郎ー」と手を振っている、ように聞こえるんですが、オルガン弾くのは「一郎」。一郎ー、て言ってるのがそう聞こえちゃうのか、脚本が間違えたのか、どっちだ?

 いよいよ事件勃発。一般市民のはずの日本人の皆さんが結構戦ってるのは、この時期の台湾、しかもこの地域に来ている日本人が比較的、危険に対処できる能力がある人、だったから。今風に言うと、危機管理能力のある人。あと、公務員は士族階級出身率も高い。

 キム兄演じる佐塚主任に庇われ、霧社から逃げていく高官二人。めがねの人は小笠原郡守。普段は霧社にはいない人です。もう一人は菊川督学。この人も普段なら霧社にはいない。小島一家といい、普段はいない人、がこの日はいっぱい集まっていた。自分の子が参加するから、というだけでなく、関係なさそうな人たちにとっても毎年結構楽しみな年中行事だったらしい。映画では描かれてませんが、運動会前日には学芸会も開催。そんなわけで周辺地域のあちこちから、いわば「観光客」がやってくる。それがあって襲撃にはこの日が選ばれたわけです。要は、その日は日本人が勝手に集まってくるから一網打尽にしちゃえという作戦。

 一郎一家とはぐれちゃった川野花子、納屋に逃げ込みます。ここで、あなた蕃人でしょう? と発言するのはルビちゃんにびしびし言ってたあのおばさん。

 霧社の街を歩いてゆくセデック族の死者たち。よくみるとモーナパパの隣りには、セデック族が破れた日に腕を切られて殺された子がいます。

 派出所に逃げ込む菊川督学。派出所の人たちが大至急避難するのに使用しているトロッコ。最後の川中島移住シーンでも映りますが、鉄道敷設に向かない山岳地域の交通手段で、材木や資材の運搬の他に人間の行き来にも使われた(映ってるのは運搬用ですが、もうちょっと乗り心地のいい旅行用もあったそうな)このトロッコも、大体において原住民を安く使って作ったものだったりします。ちらっと映る操縦している人は台湾人。完璧肉体労働なので、日本人はやりたがらず、台湾人か原住民の仕事、となっていたそうです。

 後編で、避難する日本人たち。「お前達蕃人が何を考えてるのかさっぱりわからん」発言の旦那。いったいなんでこの二人結婚したのと思うシーンだが、実は、原住民との結婚は政策として奨励されていた。理由としては、とにかくがんがん日本人と結婚させて日本の血を混ぜて日本人化しちゃおう、というものと、有力者の娘と結婚することで部族を掌握しようぜ、というものなので、頭目の娘と警察官、というカップルが多かった。ただ、最初から現地妻扱いで、赴任が終わったら捨ててってOKということになっていたらしい。実際、捨てられた人は多いです。映画には出てこないんですが、モーナの妹が実際捨てられた人。で、そうなると、当時はやっぱり「女に問題がある」と見做される。ついでに、映画のカップル見てもわかるとおり、あんまり愛されてないんだよね。てか、見下し姿勢がDVの領域に入ってる。捨てられなくても苦労は多かったようです。ちなみに、映画ではさわやか好青年というか、現代人ぽ過ぎて多少浮いているさわやかな印象の小島巡査ですが、実は日本人家族の他に同時進行で原住民妻もいたんだそうだ。

 どんどん死んでいくセデック族の人々。
 作中ではタウツァのタイモ・ワリスがトラウマになりそうなくらいショック受けてますが、日本人から見てもこれはショックが大きかったらしい。特に親子三人川の字で死んでいた花岡一郎夫妻と、一族の縊死死体全てに顔に布を掛けてあげてから死んだ花岡二郎の遺体には、涙を流す人も多かったそうです。政治的思惑もあってのことでしょうが、当時、首謀者疑惑を掛けられ連日新聞で叩かれていた花岡両名はこれを機に警察によって大々的に名誉回復、死亡した場所も「花岡山」という地名になっています。

 糜爛ガス。第一次世界大戦後なこの時代、当然毒ガス兵器は国際的に禁止されていました。ということもあって、当時からこの使用はかなり秘密裏であり、使用したこと自体おおっぴらには認められていません。というか、枯葉剤とかと違ってガスを上空から密閉空間でもない山岳地帯に撒いて本当に効果があったのかもいまいち怪しいらしいんですが、健康に影響のある何か、が使用されたことは確かなようです。投降を促すビラの方は掛け値なしに本当です。

 日本兵もろともダイブするバーワン。ラストの方、この首は子供じゃないか、と言われているのがバーワンの首です。画面には映らず、後ろの方の台詞の遣り取りでそうとわかります。遺体の首も切って持っていったようですね。

 タイモ・ワリス。作中ではモーナの永遠のライバル、と言う感じでちょい悪役気味に描かれていますが、当然ながらタウツァ・トンバラ社の人々にとってはマヘボの人々にとってのモーナ同様、英雄で希望の星みたいなもんでした。この人が戦死しちゃったことが、第二次霧社事件と呼ばれる事件に繋がっていったりします。

 川中島移住。本当に川の中にあって、外界と繋がるのは橋一本と言う、吉原みたいな地形の島です。当然、一種の収容所。ビビアン・スー演じる川野花子のように、投降した人々は警察によって保護されていたのですが、ある時、その保護地がタウツァによって襲われ、かなりの人数が殺害されるという事態が起こりました。これが、第二霧社事件です。これをきっかけに、ここは危ないから川中島行こうねーとうまいこと移住させられちゃったわけです。

 モーナの遺体は半分白骨化、半分はミイラ化して発見されました。頭部を銃で撃っての自殺だったそうです。

 最後、虹の橋を渡っていく人々にはタウツァのタイモ・ワリスも含まれています。死んだら敵味方はなく、自分を殺した人の守護霊となるという信仰の反映ですが、日本人は含まれてないね。俺たち友達だろ、ていいながら殺された人くらい含んどいて欲しかったような。

 第二霧社事件。映画の中では描かれない後日譚です。霧社事件の際に警察から武器を貸与されたタウツァ、トロックの人々ですが、事件終わった後も、これを返そうとしなかった。自分達はトゥグダヤに恨まれているから身を守るには武器が必要だ、と言うわけ。セデック族同士を戦わせたツケです。そして、日本側としては、投降してる人の中にも当然事件参加者はいるだろうなーと思っていた。なので、タウツァに持ちかけた。武器返す前に、警察が保護してるセデック族襲っちゃっていいよ、見ない振りしとくからさ。かくして保護されていたはずのトゥグダヤの人々が襲われ、成人男子中心にざっと二百人が殺害されるという事態勃発。タウツァ、特にトンバラ社の人々にとっては、自分のところの頭目を殺した相手なんで、恨み骨髄だったわけです。

 第一・第二霧社事件を経て、当時1200人ほどいたトゥグダヤの人々は300人にまで減ってしまいます。なお、この後帰順式を行った際に、事件への参加を疑われたり、日本への敵意が認められた人々が三十数人連行されましたが、この人たちは病死ということにされ、実際は殺害されています。生き残ったトゥグダヤの人々は川中島に移住させられ、彼らの土地はタウツァとトロックに褒美として与えられたので、現在の霧社近辺に住んでいる原住民の人たちはタウツァとトロックの人たちです。



DVDは31日発売です。豪華版と通常版。





豪華版特典ディスク内容はメイキングその他。

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